『病室で念仏を唱えないでください』が出来るまで。



いろいろ取材を受けた際に話してきたので今更感があるが、

漫画タイトル然り、とても長い経緯があり描こうと思って

温めてきた作品ではない。

2007年にビッグコミックオリジナル増刊号で描いた「M.D.」という作品が

前身といや前身で「あおば台病院」という病院名はここから取った。

それでもって「M.D.」というのは、どういう作品かと言うとやっぱり救急医の

話で、一旦サラリーマンとして働いていた人間が

おじさん研修医となり癖の強い救命救急センターで働くという話なのだが、

この話、実はさらに遡ること2、3年前に描いたネーム(漫画のラフ画)だった。

当時の副編集長が捨てずに大事にとっておいたようで急に描かないかとという

連絡が当時の担当編集さんからあった。

ちょうどその時私は女性誌の「YOU」でこれまた救急医の連載を

始めたばかりだったが描かせてもらえるならと、まず女性誌に許可を取り

押し入れの奥に眠っていた「M.D.」の古いネームを探し出し

オリジナル増刊に30ページの読み切りを描いた。

しかしこの作品がいろんな方向に功を奏した。

人生、一寸先は何が起こるか本当にわからない。

このオリジナル増刊で自分の描いた「M.D.」と他二作品の中で

続編が読みたい作品はどれかという読者アンケートでトップを頂いたと聞いた。

ただしこのアンケートの結果は、増刊号だしすぐには出てこない。

その間にこの「M.D.」を読んだスペリオール編集長から

「相棒」コミカライズの大きな話が舞い込んだのだった。

「M.D.」続編を考えてくれていた副編には申し訳なかったが

人気ドラマだし原案付きだし、キャラは出来ているし

このビッグウエーブに乗らない手はない。

当時は映画の宣伝の為のもので1巻で終わるはずだったが、

ドラマは徐々に視聴率を伸ばして空前の大ヒットとなり関連商品が売れに売れ

あれよあれよと12巻まで続いた。

しかし、そう言った利権が絡むと映像会社とテレビ局との版権やら

いろんな問題で度々ごたついたのと

売れない雑誌の生き残りをかけた改編であえなく終焉を迎えざるを得なかった。

連載が終わった後のことなど全く考えてなかったし、完全にバーンアウト状態で

進まぬペンにイラつきながら最終回までのらりくらり描くしかなかった。


そんな折、「M.D.」を描かせてくれた副編がビッグコミックの編集長となり

連載が終わるならうちで医療物を描かないかと声を掛けてくれたのである。

ところが、それはそれでとっても複雑な気持ちだった。

この相棒を描いている最中、女性誌のYOUでも「誰にも等しい明日」という

救急医療物をずっと描いていた。

単行本は1巻しか出してもらえなかったが、実際は単行本4巻ぐらいは描いており

自分の中で描き切った感があった。

医療物が好きなのではなく、生かすか死なすかの駆け引きがあり

所見や検査データで病態や異状のある部分を明らかにしてゆくのは単純に面白い。

ただ症例を探したり考えたりするのは大変だし、調べるのにも相当時間が掛かる。

今だからSaO2が何なのか、除脳硬直が何なのか医療者ほどの知識はなくとも

理解できるようになったが、まだ最初の頃は症例読むだけで始まりから終わりまで

検査値やアルファベットでの略語など用語を調べ

ストーリーの中で表現はしなくともこの病態になるとどうして他で合併するのか

敗血症とSIRS 違いは何なのか自分が頭の中で納得、理解するまで

作画は先に進めない状態だった。

何よりも毎回ゲストとなる患者の設定を考えねばならなく、生死がストーリーを

左右するため男にするか女にするか老人か子供か職業は何か家族はどうするか等

自分で取り決めるのだがそれが途方もない労力なのだ。

下描きになってまで悩むことは多々あるし、

ペンが入ってから丸々直すこともよくあった。


そういった経緯があり医療物は苦労するのが目に見えているので

生活しないとならないという現実と、でも出来れば描きたくないという

気持ちの葛藤が大いにあった。


当初、編集長との打ち合わせで話があったのは先述の「M.D.」の続編だった。

ネームを描いた当時は、単におじさんが研修医って面白いと思っていたが

打ち合わせのちょうどその頃、フジテレビでサラリーマンだった人間が

医師になったというダダ被りのドラマを始めようとしており、

ネタはこちらが明らかに先だが真似と思われるのが嫌だよね、となり

その話はなくなった。

次に緩和ケアの医師の原作付きをやろうという話が出たが、これもうやむやの内に

無くなった。相棒の連載もまだ続いており、

忙しい中何度も編集長と打ち合わせたがなかなかこれと言ったアイデアはなく

しまいには、相棒のスピンオフで米沢の事件簿もビッグコミックで

漫画にしたのだがこれの続編をやろうか等の話まで出た。

当然、また権利関係で揉めるのが明らかだったので

この話はすぐ無くなったのだが。

そうこうしているうちに担当が付いて初めて3人で打ち合わせをした日、

まーとにかくいろいろな話をしたのだが、医療物を描くことは確定しており

あとはどの分野にするかとか主人公をどうするかだの

いろいろ話を摺り寄せるのだが

これと言った決定打もなくだらだらと時間は過ぎていった。

その時何かの話の中にたまたま編集長が取材されたお坊さんの話をされた。

何の気なしに聞いていたのだが、待てよ・・・医者が僧侶なら面白くね?となり

お坊さんでお医者さんっているんですかね?と話の腰を折って割って入った。

すると急に僧侶の話で盛り上がり、葬式仏教しか知識のなかった自分は

人の死を弔うための僧侶が命を救う医師なら面白いと直感したのだった。

少し光明が見えてきていろいろ調べていくうち僧医の歴史に辿り着き

理に適っていたことが分かった。

また取材を重ねるとお坊さんで医師はあっちこっちにいて自分の中では

その存在自体は特別なものはなく当たり前なものに思えるようになってきた。

こうした紆余曲折を経て出来た作品だが、案の定やっぱり苦労は多かった。

医療の知識だけではなく仏教の知識も必要となり、

髪を掻きむしりながら描いていたし

主人公・松本照円も全く動かぬキャラで苦労した。

よくモデルはいるのか聞かれるが、モデルはいない。

でも、いたらたぶんもう少し楽だったかもしれないなぁ。

むしろ、濱田や藍田のようなひねくれている性格の方が人物は描きやすい。


しかしもうそう言えるのもラスト1話になった。

本当なら六道の6巻で切りよく終わりたかったが、映像化の話が入りそうも

行かなくなってしまった。

取りあえず頑張るべ。

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結局完徹やん。ちょっと眠くなってきたわ。